かかりつけの動物病院を変えたい。でも何年も診てもらってきた先生に、どう切り出せばいいのか分からない。理由を聞かれたら何と答えるべきなのか、黙って別の病院に行ってもいいのか。

「言い訳」を用意しないと切り出せない、と感じている人は少なくありません。

結論から言うと、用意しなくて大丈夫です。 獣医師法にも狂犬病予防法にも、飼い主がかかりつけを変えるときに理由を説明したり、許可を得たりしなければならないという規定は置かれていません。この記事では、そこを条文で確認したうえで、記録をどう引き継ぐか、引越しのときに何を届け出るかまでを整理します。

理由を説明する義務はない

動物病院にかかるかどうか、どの病院にかかるかは、飼い主が決めることです。獣医師法と狂犬病予防法を見るかぎり、かかりつけを変えるときに前の病院へ届け出たり許可を得たりすることを求める規定はありません。 定期健診のコースや会員制度など、病院と個別に契約を結んでいる場合はその取り決めが別にあるので、そこだけは手元の書類を確認してください。

新しい病院に受け入れてもらえるかも、条文で確かめられます。獣医師法第19条第1項です。

診療を業務とする獣医師は、診療を求められたときは、正当な理由がなければ、これを拒んではならない。

つまり診療を断るには「正当な理由」が要るという建て付けです。条文は「正当な理由」の中身までは定めていないので、何が該当するかは個別の事情で判断されます。ただ、他の病院に通っていたことや紹介状がないことが、それだけで診療を断る理由になるとは条文から読み取れません。専門病院で紹介が前提になっている場合や、その日の受け入れが埋まっている場合など、事情によって断られることはあります。

前の病院に何も言わずに変えることもできます。ただし2つだけ、連絡したほうがよい場合があります。ひとつは、これまでの検査結果や治療経過を引き継ぎたいとき。もうひとつは、フィラリア予防やワクチンの案内はがきが届いている場合で、伝えておかないと届き続けます。

そのときも、理由を細かく話す必要はありません。「引越しをするので」「家から近いところに変えたい」と事実を言えば足ります。

転院とセカンドオピニオンは別のもの

同じ「他の病院に行く」でも、この2つは目的が違います。混ざったまま動くと、前の病院との関係も、新しい病院での話も、うまく進みません。

転院セカンドオピニオン
目的かかりつけを変える別の獣医師の見立てを聞く
その後新しい病院に通うもとの病院に戻って治療を続けることが前提
前の病院への連絡義務はない。記録を引き継ぐなら依頼する診療情報を持っていくため、紹介状を頼むのが自然
向いている場面引越し、通いにくい、方針が合わない診断や治療方針に迷いがある。手術を勧められた

セカンドオピニオンは、もとの病院に戻る前提の相談です。だから紹介状やこれまでの検査データを持っていくほうが話が早く、前の病院にも頼みやすくなります。「他の先生の意見も聞いてから決めたい」と伝えれば足ります。

一方、転院は最初からかかりつけを変える判断です。前の病院に断りを入れる義務はありません。

迷ったときは、いま困っているのが「この診断でいいのか」なのか、「この病院に通い続けられるか」なのかで分けてください。前者ならセカンドオピニオン、後者なら転院です。診断に納得したうえで通いにくさが理由なら、そもそも他の先生の意見を聞く必要はありません。

変えるかどうかを決めるとき

変えていいのか迷う場面は、だいたい次のどれかに当てはまります。判断の軸は「困りごとが病院を変えれば解決するか」です。

状況考え方
引越し・転勤通えなくなるので変える。理由の説明も要らない
通うのに時間がかかる、駐車場が使いにくい通院の負担は治療の継続に直結する。変えてよい理由になる
診療時間が生活に合わなくなった同上。急病のときに開いているかは重要
診断や治療方針に納得できないまずセカンドオピニオン。そのうえで判断する
専門的な検査や設備が必要になった転院ではなく、紹介してもらえることが多い。まず相談する
病院が閉院した、獣医師が交代した変えざるを得ない。早めに次を探す

通院の負担を理由に変えるのは、後ろめたいことではありません。通いにくさは通院の頻度を下げ、結果として治療の質に響きます。

なお、複数の病院を目的別に使い分けている飼い主もいます。夜間や急病に対応する病院と、日常の予防を受ける病院を分ける形です。ただし持病の治療中は、経過を一貫して見てもらうほうが判断がぶれません。使い分けるなら、どちらの病院にも「他にも通っているところがある」と伝えておくと、投薬の重複を避けられます。

カルテはもらえるのか

「カルテをください」と頼んで断られた、という話がよく出ます。ここは法律の建て付けを知っておくと、頼み方が変わります。

カルテ(診療簿)は病院が保存するもの

獣医師法第21条第1項は、獣医師に対して診療簿への記載を義務づけています。第2項では保存も義務づけていて、期間は農林水産省令に委ねられています。その省令である獣医師法施行規則第11条の2が、こう定めています。

法第二十一条第二項の農林水産省令で定める期間は、牛、水牛、しか、めん羊及び山羊の診療簿及び検案簿にあつては八年間、その他の動物の診療簿及び検案簿にあつては三年間とする。

犬と猫は「その他の動物」なので、カルテの保存期間は3年間です。

そして重要なのは、この条文が定めているのが獣医師の保存義務だという点です。飼い主にカルテそのものを交付する義務は、獣医師法には書かれていません。断られたとしても、病院が意地悪をしているわけではありません。

診断書なら「拒んではならない」と書かれている

一方、診断書については明確な規定があります。獣医師法第19条第2項です。

診療し、出産に立ち会い、又は検案をした獣医師は、診断書、出生証明書、死産証明書又は検案書の交付を求められたときは、正当な理由がなければ、これを拒んではならない。

記録を引き継ぎたいときは、「カルテをください」より「診断書をお願いします」と頼むほうが、法的な裏付けがあります。 断るには正当な理由が必要だと条文に書かれているからです。

ただし、これは診断書の交付についての規定です。カルテの写しや検査データ一式まで出してもらえるという意味ではなく、どこまで提供するかは病院の運用によります。診断書に何を書くかの範囲も法令には定められていないので、引き継ぎたい内容は自分から具体的に伝えてください。

カルテに何が書かれているか

診断書に何を書いてもらうかを考えるうえで、カルテの記載事項を知っておくと役に立ちます。獣医師法施行規則第11条が、診療簿に「少なくとも」記載すべき事項を定めています。

記載事項内容
診療の年月日
診療した動物の種類、性、年齢(不明のときは推定年齢)、名号、頭羽数及び特徴
診療した動物の所有者又は管理者の氏名又は名称及び住所
病名及び主要症状
りん告
治療方法(処方及び処置)

「りん告」は聞き慣れない言葉ですが、飼い主から獣医師への申告のことです。いつからどんな様子だったか、という飼い主の説明が記録に残ります。

診断書を頼むときは、この6項目のうち引き継ぎたいものを具体的に伝えると話が早くなります。持病があるなら「病名と、いま出ている処方」を明示して頼むのが実際的です。

紹介状の頼み方

紹介状の作成を獣医師に義務づける規定は、獣医師法にはありません。対応は病院ごとになるので、頼み方で結果が変わります。

項目実際のところ
義務か獣医師法に作成を義務づける規定はない。病院の判断
費用無料の病院もあれば有料の病院もある。金額は病院ごとに違うので依頼時に確認する
期間即日出る病院もあれば、数日から1週間かかる病院もある
依頼のタイミング転院を決めた時点。引越しなら日程が決まった時点

費用の目安を挙げている記事もありますが、動物病院の診療料金は各院が自由に決めており、全国一律の基準はありません。 金額は依頼するときに聞いてください。

紹介状がない場合、新しい病院では検査をやり直すことがあります。血液検査やレントゲンをもう一度受ければそのぶん費用がかかりますし、結果が出るまで治療の判断も待つことになります。持病があって投薬を続けているなら、この待ち時間のほうが問題になります。

引越しで変えるとき

引越しは、理由の説明がいちばん要らないケースです。前の病院にも「引越すので」と言えば話が済みます。ただし、動物病院とは別に自治体への手続きが要ります(引越し先の自治体によっては1本にまとまります。後述します)。

犬は30日以内の届出が義務

狂犬病予防法第4条第4項が定めています。

第一項及び第二項の規定により登録を受けた犬の所有者は、犬が死亡したとき又は犬の所在地その他厚生労働省令で定める事項を変更したときは、三十日以内に、厚生労働省令の定めるところにより、その犬の所在地(犬の所在地を変更したときにあつては、その犬の新所在地)を管轄する市町村長に届け出なければならない。

届け出る先は、引越し先の市町村長(特別区は区長)です。ここでいう「厚生労働省令で定める事項」は、同法施行規則第7条で「犬の所有者の氏名及び住所」と定められています。

罰則もあります。同法第27条は「次の各号の一に該当する者は、二十万円以下の罰金に処する。」と定め、その第1号に「第四条の規定に違反して犬…の登録の申請をせず、鑑札を犬に着けず、又は届出をしなかつた者」を挙げています。

過料ではなく罰金です。 過料は行政上の秩序罰ですが、罰金は刑事罰にあたります。

なお鑑札については、同法第4条第3項が「犬の所有者は、前項の鑑札をその犬に着けておかなければならない」と定めています。転居先の市町村での扱い(旧鑑札の返納や新しい鑑札の交付、手数料)は自治体ごとに運用が異なるので、届出のときにあわせて確認してください。

マイクロチップの住所変更は日本獣医師会へ

ここは間違えやすいところです。届け出る先は、環境省の「犬と猫のマイクロチップ情報登録」で、指定登録機関は公益社団法人日本獣医師会です。

環境省は公式のQ&Aで、こう注意喚起しています。

環境大臣が指定した指定登録機関に登録の申請を行っていただきます。指定登録機関には、公益社団法人日本獣医師会が指定されています。環境省のマイクロチップ情報登録の制度は、公益社団法人日本獣医師会が民間登録団体として実施しているマイクロチップ登録事業(AIPO)とは異なりますので、ご注意ください。

同じ日本獣医師会が運営していても、AIPOへの登録は環境省の制度とは別です。 AIPOだけに住所変更をしても、法定の届出をしたことにはなりません。

住所変更の義務についても、環境省は明確です。

指定登録機関への情報登録の手続きが完了した後に、登録事項(住所や連絡先等)に変更が生じた場合には、登録事項の変更の届出をしなければなりません。(中略)※上記の手続きを行わないと法律違反になります。

手続き手数料
登録事項の変更届(住所変更など)かからない
登録・変更登録(オンライン申請)400円
登録・変更登録(用紙による申請)1,400円

住所が変わっただけなら変更届で、手数料はかかりません。

自治体によっては手続きが1本になる

ここまで「犬の登録変更」と「マイクロチップの変更届」を別々に書きましたが、引越し先の市区町村によっては1本で済みます。 環境省が「狂犬病予防法の特例」として説明しています。

犬の所在地を管轄する市区町村が「狂犬病予防法の特例」制度に参加していれば、生後91日齢以上の犬が「犬と猫のマイクロチップ情報登録」から登録を受けた際に、指定登録機関からその市区町村に、登録された犬の情報や所有者情報が通知されます。その通知が狂犬病予防法に基づく登録の申請等とみなされ、装着されたマイクロチップは狂犬病予防法に基づく鑑札とみなされます。

特例に参加している市区町村では、マイクロチップが鑑札の代わりになります。参加しているかどうかは自治体によって違うので、引越し先の市区町村の案内で確認してください。参加していなければ、犬の登録変更とマイクロチップの変更届の両方が必要です。

制度が始まったのは令和4年6月1日です。この日以降にブリーダーやペットショップで販売される犬猫にはマイクロチップの装着が義務づけられています。家庭で飼っている犬猫への装着は努力義務ですが、装着した場合は登録が義務になります。

持病があるときに気をつけること

持病があって薬を飲んでいる場合、転院で気をつけるのは費用より投薬の空白です。

手元の薬が何日分残っているかを先に数えてください。そのうえで、残りが尽きる前に新しい病院の初診を入れます。初診でいきなり同じ薬が出るとは限らず、検査してから判断する病院もあるので、余裕をみて2週間前には動くほうが安全です。

新しい病院に伝えることを、先にメモにしておくと診察が早く進みます。

  • 病名と、診断された時期
  • いま飲んでいる薬の名前・量・回数(薬の袋か処方の記録をそのまま持参する)
  • 直近の検査でどんな数値が出ていたか
  • これまでに効かなかった薬、副作用が出た薬
  • 予防(狂犬病・混合ワクチン・フィラリア・ノミダニ)を最後にいつ受けたか

薬の名前は正確でないと意味がないので、記憶で言わず現物か記録を見せてください。

新しい病院の探し方

複数の方法を組み合わせるのが確実です。

エリアで候補を絞る。 動物病院の検索ポータル(EPARKペットライフ、アニコムどうぶつ病院検索など)で、新居周辺を一覧で確認できます。診療科目、対応動物種、診療時間で絞り込み、候補を3軒から5軒ほど出しておきます。見るのは、自宅からの距離(車で15分以内が目安)、診療時間(仕事帰りに通えるか)、駐車場、対応動物種、ペット保険の窓口精算に対応しているかどうかです。

口コミは内容を読む。 Googleマップの口コミは、評価の星の数より中身が参考になります。「説明が丁寧」「待ち時間が短い」「急患にも対応してくれた」のような具体的なコメントを見てください。口コミが極端に少ない病院は判断材料が足りないので、一度足を運んで雰囲気を見るほうが確実です。

いまの先生に聞く。 引越しであれば「引越し先の近くで良い病院はありますか」と聞いてみる手があります。獣医師同士のつながりで紹介してもらえることがあり、連携もスムーズになります。

近所の飼い主に聞く。 引越し先で散歩している人に聞くのが、いちばん実感のこもった情報になります。犬の散歩中はペットの話が出やすいので、声もかけやすいはずです。

転院の進め方

引越しを伴う場合の目安です。引越し以外の理由で変えるときは、自治体の手続きを飛ばして読んでください。

時期やること
2〜3週間前新しい病院の候補を3〜5軒に絞る。いまの病院に診断書か紹介状を依頼する
1〜2週間前薬の残量を確認し、足りなければ処方してもらう。予防の記録を手元にまとめる
引越し当日まで診断書・処方の記録・予防接種の証明書を、すぐ出せる場所にまとめて入れる
引越し後30日以内マイクロチップの登録事項の変更届を出す。引越し先が特例に参加していなければ、犬の登録変更も新しい市町村へ別途届け出る
引越し後1〜2週間以内新しい病院を受診する。持病があるならもっと早く

自治体の届出は30日以内が期限ですが、動物病院の受診はそれより早いほうがよい場面が多くなります。とくに投薬中は、薬が切れる日から逆算してください。

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参考情報

法令は改正されることがあります。手続きの詳細と自治体ごとの運用は、引越し先の市区町村にご確認ください。